私だけのキャンディ①
チエちゃんに幸せになってほしい、と口に出すと、その言葉はお花のようにふわっと顔の前あたりで白く光った。(p149)
誰かを想って、損得勘定や打算抜きでシンプルに誰かの幸せを願う瞬間、世界中の神様から祝福を受けたような満たされた気持ちでいっぱいになる。
私はここにいて、想った誰かは別の場所にいて、いま外では雨が降ってるかもしれないし、どこかでは同時刻に誰かが大切な何かを失っている最中かもしれない。
私はここにいて、特別に贅沢な食事を与えられているわけでも豪華絢爛な衣服を身に纏っているわけでもなく、本当にいつも通りのただの私なんだけれど、そう願った瞬間に満ち溢れる心の温もりだけは、涙が伝うくらい愛おしいものなのです。
小学生の頃。
一人帰る道すがら、突発的になんの因果関係もなく「神さま。お母さんと妹をお守りください。もし二人が死ぬようなことがあったら、代わりに私の命を捧げますから助けてあげてください」と心の中で念じたことを、ばななさんのこのくだりを読んで思い出した。
宮沢賢治の作品が好きなのも、私の中にこのルーツがあるからなのだろう。そう思う。
でも本当に幸せな気持ちになれるんです。
今も。
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吉本ばなな『チエちゃんと私』
文春文庫 2009年4月10日初版
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