吉本ばなな『TUGUMI』
「つぐみは、自分の命を投げ出したのだ」
つぐみは、人を殺そうとした。自分の体力の限界をとっくに超えた作業の果てに、相手の死なんて自分の大切な犬の死より軽いと信じ切って(p190)
吉本ばななが再マイブーム到来です。
彼女の作品を一番多く読んだのは高校生の頃だったでしょうか。
あの頃の私と今の私は当然いろんなところが少しずつ違っていて、だから同じものを見たり触れたり聞いたり読んだりしても、受け止め方も変わっていたりします。
ずっと、吉本ばななさんの作品に込められ続けている"決意"のようなもの。
明るさの底には変えようのない絶望があることを、この作品の巻末に載っていた解説によって知りました。
「ばななさんは、必ずしも人生について否定的ではないんだ」
ーええ、むしろ否定的です。あまりにも否定しているので、せめて小説ではそれを救うようなものを書きたいと思っているんです。
否定的な人間が否定的なことを書いてもしょうがないですから。
子供の頃から読後感の悪いものってあまり好きじゃなかったので、自分もそういう意味では、ある種のハッピーエンドを絶対書くと決めているんです。
「それでは、ばななさんの考えている『優しさ』とは何ですか」
ーやっぱり「献身」みたいなことだと思います。
(解説p244)
人は、負の感情を抱いたときに、
それをそのまま闇として描き出すときと、くしゃっと潰れてしまいそうなほど儚くてきらきらとした美しいものとして描き出すときの、二つのパターンがあると思っています。
意志で選んでいるのか、無意識なのかは人それぞれになるのだろうけど。
ばななさんは、意識的に美しいものだけを自分の世界に散りばめています。
少しの悲しみと孤独の重さと、それでも生きていくってことはきっと素晴らしいことなんだ、と伝えてくれる。
孤独はその人固有のものだから決して分かち合えない。分かり合えることはないし、結局人は一人なんだけど、だけどその中で一瞬でも時間が交差して触れ合えた人がいて、その思い出だけは決して誰にも奪えないからー
だから、変わらないもののない世界でその一瞬を抱いて生きていけたらいい。
優しい人でありたいと、強く思います。
吉本ばなな『TUGUMI』
中公文庫出版(1992年3月10日初版)
第二回山本周五郎賞受賞 作品
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