そして、私だけのキャンディ⑤

吉本ばなな著『チエちゃんと私』。
最近読み終え、心に残ったエピソードや文章を引用し紹介してきました。


前回はこちら▶️

これ、日記アプリに書き留めていた文章たちなのです。
が、一つのblogに載せるにはあまりにも長くて読んで下さる方が読みにくいだろうと思ったので分けたら、結果5つになってしまいました。

チエちゃんの魅力はどこにあるのか。
それは、物語の終盤に主人公のこんな言葉で明かされます。
(チエちゃんももちろん主人公ではあるのですが)

私は、花束を買ってきてテーブルの上にいけたら、枯れたときのことばっかり考えるタイプだったの。
一週間はもつかな、とか、先にこの花が枯れたら、これを取って、残ったこれとこれをあの花瓶にいけなおそう、とかそういうふうに。
ー略ー
でも、チエちゃんはほんとうに花が枯れる瞬間まで、花の様子にまかせることができるの。

私にとって、時間は大ざっぱに先へ先へと進むものだった。
でも、チエちゃんの瞬間はもっともっとより細かい瞬間に分かれていって、それはもはや永遠だし無限なの。

チエちゃんの一瞬には百万の世界がめくるめく色彩で展開しているみたいなの。

私はそれを学んだ。
私の退屈はそれですっかり消えたのよ。(p198)

ばななさんは、現実がやさしいものでないことを知っているから、決して誰も介入し得ないもの、不可侵なものとしての"幸せな思い出"を、大切に、大切に描いていきます。

それはたとえば、この本の終わりの方にあるこんな文章にも表れています。


昨夜の篠田さんの苦しそうな声も、
雨の夜にチエちゃんから泣きながら電話がかかってきた感じも、等しく甘い感じで思い出された。

私を思って、私に対して向けられたごほうびみたいな他人たちの感情。

それは、誰にもわけてあげられない、私だけのキャンディなのだ。(p206)


私だけのキャンディを、できるだけさまざまな味や色、形のキャンディをできるだけ沢山集めながら、昨日でも明日でもない"今日"という日を、しっかり生きていきたいな。


吉本ばなな『チエちゃんと私』
文春文庫 2009年4月10日初版



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