Bon Bo Ba Bon-作詞家ベイビーの道①-
【作詞には必然性が必要】
最近、「物事にはすべて意味がある」という言葉が、実感を伴って身体の内側に根を生やし始めました。
ユーミンいわく「全てのことはメッセージ」という、あれですね。
そして作詞の世界にも意味="必然性"というものが不可避というのが、私の今の持論です。
【キャッチーであるということ】
今更ですけど、すごいんですよ。
つんくさん。
あの頃は何も分からず友達と盛り上がっていました。セクシービーム!ってポーズ決めたり役割分担して歌ったり。
この「分からないけど口ずさんじゃう」っていうのがいわゆる"キャッチー"さのことです。
一度聞けば耳に残る。
軽く歌えちゃう。
メロディと作詞のバランス(もちろんオケのアレンジやボーカルの声も込みです)がなんだかとっても良い感じなんですよね。
このバランスは、アイドルソングには欠かせない大切なポイントでもあります。
【Bon Bo Ba Bon】
そこで今回ご紹介したいのが、「恋のダンスサイト」(モーニング娘。2000年)Aメロの一行目にあるこの言葉。
恋をする度 胸
Bon Bo Ba Bon
はい、声に出して一度呟いてみて下さい。
言いましたか?
どうですか?
さらっと読み飛ばしがちでしょう。
でもちょっと待って、
一緒に立ち止まって考えてみましょう。
恋をする度 から 胸 Bon Bo Ba Bon です。
あなたは連想できますか?
浮かびますか?頭の中に。この組み合わせ。
うーん、恋に落ちるとときめきがあるよな、キュンキュンするよな、切なくもなるよなー相手のこと思い出して一人でため息ついたりするもんな。
↑
これが普通の感じ。
そうしたら「恋をする度 ときめいちゃう」とか「あなたのことで胸がいっぱい」とか、なるですよ。普通は。
では、つんくさんは?
胸 Bon Bo Ba Bon
ですよ。
ね、これ並大抵では考えつかないでしょう。
さっきみたいに普通に書いてしまうと、作文か日記みたいでしょう。
「うん、そうだよねわかるよ、で?」って終わっちゃうんですよー!!
なにせ6音に言葉をハメなきゃいけない。
(メロディ先行の場合。今回の創り方は分かりません)
恋をする度 に続くのは、そして必要なのは「人は恋に落ちるとどうなってしまうのか」を分かりやすく共感をもって届けてくれる言葉なわけです。
でも作詞は小説とも朗読する詩とも違って、歌を通して耳に届く言葉なので、説明に寄せた書き方では魅力半減なのです。
Bon=ボン=破裂音 は勢いのある強い発声の言葉です。
Bom(爆発)を連想させてくれるし、ときめきよりもっと激しい、胸が破裂しそうなくらい高鳴っているイメージを伝えてくれます。
穏やかな愛ではなく、恋に恋する状態、
まるで世界が魔法にかかったみたいにきらめいて見えるあの独特の高揚感を連れてきてくれます。
そしてメロディとテンポ。
バラードのような曲調でないことは分かります。だからここには切なさの要素より、恋する楽しさ、喜び、はつらつとした若さの伝わる言葉をハメることが正解なんです。
ここでもし柔らかい言葉や優しく耳に響く言葉を選んでいたら、このエネルギーは伝わらなかったと思うのです。
出だしの1行目ってすごく大切だから。
初対面の人の第一印象を判断するのは数秒(諸説あります)みたいな、聞いたことありますよね?
"メラビアンの法則"と呼ばれるやつです(これも本来の意味から離れて一人歩きしていますが)。
ファーストインプレッションを決める1行目は、とっても大切なんです。
あとは、単純に声に出した時に楽しい。
口ずさみたくなる呪文みたいな響き。
覚えやすくて分かりやすい(=キャッチー)。
もう胸 Bon Bo Ba Bon以外には無いなって思っちゃうでしょう。これが必然性です。
正解がないようであるのが作詞の世界です。
と、この1行だけでもつんくさんの凄さが分かります。とにかく凄い。こんな風に書きたい。。。
この、1+1=2 じゃなくて、
1+1=3だったり4だったり、オメガだったりイデアだったりするのが作詞における言葉と言葉の組み合わせの面白いところ。
普通組み合わせない言葉の掛け合わせで、結果が掛け算になるんです。
【夜明けをくちずさめたら】
例えば、生きものがかりの水野良樹さん
作詞作曲「夜明けをくちずさめたら」(上白石萌音 2020年)。
誰もがひとりぼっち
やりきれないほど
悲しみがあって
でも笑いたくて
悔しさにもたれて
見上げた夜空にくちずさむ
悔しさにもたれて という言葉。
願いが叶うのなら
はぐれたひとにも
しあわせが落ちて
ぬくもりが生まれて
優しさがつながれて
またいつか逢えたらいい
しあわさが落ちて という言葉。
悔しさ と もたれる
しあわせ と 落ちる
「悔しさ」は感情を表現する言葉で形のないもの。
対して「もたれる」は本来行為を表すものだから、肉体的な動きの表現として使われる言葉です。
普通はこの組み合わせで使いません。
でも、しっくりきますよね。
情景が浮かんできますよね。
「しあわせ」(ひらがな な所も良いですよね)が落ちて、と書かれると、
まるで空から流れ星みたいに、あるいは雪の結晶みたいにしあわせが降りそそいでくる、そんな優しさを感じさせてくれます。
こういう普段は組み合わせない言葉を選ぶことで、前後の行間(=余韻・余白)を引き立たせると、1+1=2 じゃすまなくなるんです。
たった1行なのに、もっとたくさんのイメージを連れてきてくれるんです。
他にも様々な仕掛けがあると思いますし、ポイントとしてもう1つ「作詞は難しい言葉じゃなくていい」というお話もありますが、それはまた別の機会に…。
最近、ふっと頭をよぎった
胸 Bon Bo Ba Bon
の素晴らしさをお伝えしたくなったので、長々と書かせていただきました。
作詞ってまるでジブリ作品に出てくる森みたい。とても奥が深くて面白いです。
どうか少しでも面白さが伝わっていますように!
1枚目 写真提供 https://www.pakutaso.com
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